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「笑いあり、涙あり、苦あり、キジル千仏洞保存に協力した日本人」5

第5回「見えなくなった釈尊の壁画~消えた中にも本来の価値がある~」

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京都や奈良のお寺参りをすると、荘厳な仏像を目にする。そして、「すごいな~」と感嘆する。その仏像が祀られている建屋にも煌びやかな色彩が施され、太い柱がドンとすわり見るものを圧倒させるから、仏様がすごいのか、作った職人がすごいのか、とにかくわからないまま見とれ、その空気に飲まれ「価値があるのだろう」と思ってしまう。もちろんものすごい価値はあるのだろうが。


以前、小島さんに同行して新疆クチャのキジル千仏洞にほど近い所にある、クズルガハ千仏洞を見学したことがある。規模でいえば、キジル千仏洞に遠く及ばない。乾燥した大地の中にひっそりとたたずむ。石窟の至る所が崩壊し、壁画が残る場所も少なく、ここを訪れる観光客もほとんどおらず、敢えて言えば寂しい場所。そこを小島さんと尋ねたのだ。
沙漠のように砂に覆われた谷を歩き、わずかに人の歩いた跡の小道をのぼり、一つの小さな石窟の前に立った。その石窟は、仏像もない、壁画の一片も残っていない、自然に壊れた小さな、小さな石窟だった。


「この石窟には何も残っていません。わずかに窟の一部が残るのみです。誰も注目していません。しかし、この何もない空間にも仏教は生きています。人は壁画をみて感動します。しかし、このように自然崩壊した窟からも学ぶことがあるはずです」と小島さんは崩壊した石窟の前に立ち、熱く語ってくれた。


釈迦の教えを出発に、その教えを理解し伝えようとした人、そしてその教えによってさらに理解を深めようと壁画を描いた人、その壁画を守った人、、、。私たちは、このようなものに接する時、文化財としての側面だけに興味が行きがちだ。だが、それは仏の道を極めようとした人たちの純粋な思いが下地となり、何千年、何百年かけて文化財となってきたのだ。そう思うと、単なる文化財ではないもっと重いものが、ここにあることに気が付く。


となれば、立派なお寺に鎮座されている仏像とクズルガハ千仏洞で自然崩壊し跡形もなくなっている石窟とは、価値の違いなどないのだ。でも言葉では理解できても、実際には難しい。「心の眼」・・・。それを会得できたら、もう少しキジル千仏洞を感じられるのかもしれない。


筆者:永野浩史

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