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【東南アジア映画イベントリポート】『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』ガリン・ヌグロホ監督Q&A

 2019年7月3日(水)から10日(水)まで行われている、東南アジアの映画の巨匠による作品を集めた「東南アジア映画の巨匠たち」。オープニングセレモニーの後に、ガリン・ヌグロホ監督(インドネシア)の『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』が上映されました。今回は、上映後に行われたQ&Aの模様をご紹介します。

 


『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』予告編|<東南アジアの巨匠たち>上映作品

 [2018 年/インドネシア/106 分]
『サタンジャワ』に加えてヌグロホ監督の最新作を日本初公開。中部ジャワのレンゲル(女装した男性 が踊る女形舞踊)のダンサーを主人公に、地域の芸能に根付くLGBTQの伝統が見てとれる。「ひとつの身体の中に混在する男性性と女性性を描いています」(監督)。ヴェネチア国際映画祭出品。

 

上映後に、 ガリン・ヌグロホ監督が登場しました。

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ガリン・ヌグロホ監督

ガリン・ヌグロホ監督
1961年、インドネシア生まれ。90年代インドネシア映画新世代のパイオニアとしてその名が知られる。監督作はカンヌ、ヴェネチア、ベルリンをはじめとする数多くの映画祭で上映され、多数の映画賞に輝いた。映画以外にも演劇や美術インスタレーションも手がけるほか、2005年にはジョグジャNETPACアジア映画祭を創設した。

 

Q&A

 

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Q:今回この作品を撮ろうと思ったきっかけ。

ヌグロホ監督:今回私の中での一番の挑戦は、男性を美しく描くということでした。女性の美しさについては良く理解しているのですが、男性の体の美しさをどう表現するのかというところが大きな課題でした。以前撮った作品『サタンジャワ』では悪魔と女性のロマンスを描いたのですが、今回の『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』では、男性と男性のロマンスを理解して映画にするというのは非常に素晴らしい経験でした。  

 

Q:実際映画を制作され、男性の美しさについてご自身は理解できましたか。

ヌグロホ監督:やはり世の中全てを理解するというのは不可能だと思うんですね。人や文化というのは、自分と違うものであって、逆に理解できると思ってしまうことの危険もあると思います。今回、非常に強いキャラクターというものを作り上げて、自分なりに表現してみましたが、やっぱり世の中ミステリアスな存在があってこそだと思うんですね。この世の中、全てわかってしまったら退屈だと思います。そうでなければ、私は女性と恋に落ちる、女性に惹かれるということもなかったと思います。愛というのは、人生を生き抜くために不可欠な要素かもしれないです。未知のものというのは、そういった人生の活力になると思うんですね。

 

Q:LGBTをテーマにした映画を上映するということは、インドネシアではどう捉えられているのか。一部上映禁止の運動がおきたとも聞いているが。

ヌグロホ監督:確かにLGBT映画に関しては賛否あります。私の映画も一部の宗教団体の高い地位にある方々に推奨しないという通達を出されたということもありました。私が作ってきた作品の多くはセンシティブな内容も多く含んでいて、多くの議論も起こりました。ただ、映画監督である以上は、どういった反応があるのかということを予測して、腹をくくって撮らなければいけないことはあります。ですから、私は、そういった論争が起きるということを覚悟した上で作っています。宗教団体のお達しを受けて上映しないと決定した映画館もありました。こうした動きに私は民主主義に反することだと考え、声明文を出しました。全ての人に見る権利はあるわけですから。これは許されるべきではないという声明です。この作品はユネスコの文化多様性がある作品に与えられる賞を頂きました。LGBTというテーマだけでなく表現、芸術、ダンスなど総合的な芸術表現を評価していただく賞なのです。このような映画で物議を醸し、議論ができないということは、成熟性を欠くものだと私は考えます。ですので、このようなセンシティブなテーマであってもきちんと取り組む必要があると思います。

 

Q:モノローグで登場するリアント氏について教えてください。

ヌグロホ監督:リアンとさんは、この分野においてはベストなダンサーだと思います。実は、彼とは何度かコラボレーションしていまして、彼のダンスの企画のドラマツールということで私が関わって、その作品は今でもWEBで見ることができます。この作品は、50カ国で公演しました。そして、このリアントさんや他の舞踊家たちと、マスキュリニティ(男性性)とフェミニティ(女性性)というテーマで、3年間リサーチをしてきました。その過程の中でパフォーマンスを作り上げ作品が完成しました。またリアントさんは、新しいピースを作り上げ私もドラマツールという役割で関わっています。リアントさんは、アニュマスというところを拠点にしていてそこで男性が女性を演じる舞踊、レンゲルが行なわれています。

 

Q:この映画が上映された時がちょうど大統領選と統一地方選挙の時期で、映画の中では、今のインドネシア社会ではタブーとされているような表現も多く含まれていたが、このタイミングでの上映は意図的なものだったのか。映画にどのようにメッセージを込めていたか。

ヌグロホ監督:いい質問ですね。でも答えるのは簡単ではないですね。やはり映画を作る度に必ずしも完璧とは言えないインドネシアの政治と社会についても触れたいと考えています。私の撮っている映画は、1920代ぐらいを描いた作品などでもかなり繊細なテーマに切り込んでいます。この『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』に関しても、何かを伝えようとした時に体で伝わることは全体の80%くらい、言葉で伝わることは20%程度に過ぎないと考えています。誰でも人間、身体的なトラウマを抱えていると思います。赤ん坊がなぜ泣くのかというと、自分の生まれた体に対して泣いているのだと思います。トラウマというのは、個人に限らず、社会的トラウマ、政治的なトラウマもありますよね。この映画の主人公は、トラウマからトラウマへ旅をするように新たなトラウマがどんどん出てきて、常にトラウマを背負って生きています。個人のトラウマが政治的なトラウマになり、それがマスキュリニティ(男性性)のトラウマもあれば、フェミニティ(女性性)のトラウマもある。映画に登場する政治家も主人公との関係を暴露されれば、立場が危うくなるといったそういったものを描いているんですね。この作品は、色々な国々から、早く仕上げて欲しいという要望が多かったので、2ヶ月の準備期間、2週間で撮影、編集仕上げ作業に2ヶ月という短い期間で仕上げました。その公開日が選挙の翌日だったということです。私は映画で表現したことが、直接政治に反映していると直感的に感じています。ですからこの映画もそういった要素があるのかもしれません。やはりトラウマというのは、何らかの対処をしておかないと、それが暴力という形で社会に蔓延してしまいます。日本やインドネシア、ドイツなど戦争のトラウマを抱えていますよね。これをきちんと対処しておかないと、何か汚点を残してしまうのではないかと思います。

 

Q:メッセージ

ヌグロホ監督:みなさま足をお運びくださりありがとうございます。この映画によって人生を別の視点で見るような機会になってくれたら嬉しいです。トラウマというのは、身体的だけではない、政治的、社会的なトラウマがあります。それでもご自身の体を愛してください。そして、自分の周りの環境も愛していただきたいと思います。というのは、私たちの体はこうした環境の産物だと思うからです。ありがとうございました。

 

このイベントは、10日まで行われます。

 

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