「急きょ個展を開くことになったんだよ。是非見に来てよ」。陶芸作家の坂田甚内さんから一報をいただいたのが、2014年7月半ば。あれから2か月弱、9月9日から日本橋室町にある椿近代画廊で始まった坂田甚内「私の中のビックバン―出会いの妙・縄文の記憶」展Vol.2に足を運んだ。
会場は、80坪の広いスペース。そこに坂田氏の色鮮やかな大皿や重厚感あふれる陶器が並ぶ。単なる器ではなく、オブジェともいえる巨大作品もある。彫刻にも通じる作風の物を見受けられる。また、今回、坂田氏が新たに取り組んだのが、絵画の製作。会場には、大小10枚程度の絵が並んでいた。坂田氏は自らのこれらの作品について「イメージした瞬間に湧き起ったインスピレーションの定着」だという。その根底にあるのが、独自の宇宙観や自然観。さらに「日本人の原点である」と坂田氏が考える「縄文の記憶」だ。
坂田氏の作品は、大地にバンと根を張った縄文式土器を彷彿させる力強さだ。特徴的なのは、波のような文様、「深甚文」。坂田氏いわく「宇宙の奥深さ。そこから誕生した生命体としての私たちが抱く畏敬の念を込めたもの」という。どこの芸術会派にも属さず、独立独歩でやってきた坂田氏の生き様をそのまま作品に表現していると言ってよいだろう。そんな坂田氏の作品は、スケール感がありながらも、優しさや温もりをも併せ持っている。素人の私でも感じ取れるメッセージが、それこそ波のように押し寄せてくる。
私は、坂田氏の作品を目にするに当たり、日本人がここ半世紀の中で見失ってきた物を感じる。
坂田氏が考える「ビックバン」とは何か、「縄文の記憶」とは何か、今回のテーマについてお伺いをした。 日本人の原点、生命の原点とは何か、を追い求める坂田甚内氏に、弊社が運営する「ADC文化通信」に「土」をテーマに4回シリーズで寄稿してもらう。ADC文化通信は、文化活動に携わる人たちに自由に語ってもらう場である。文化とは、人類共通の言語であり財産。その文化は、世界の人々との交流のきっかけをつくったり、時には平和を構築できるものと考えている。ADC文化通信は、微力ながらもそんなことに役立ちたいという思いから、開設したもの。
その第1回目の原稿の最終チェックをしてもらっていた時、偶然会場にやってきたのが大成建設株式会社特別顧問の平島治氏。実は、この原稿に登場している人物だった。坂田氏が小学生の時、平島氏は東大の学生として坂田氏の家庭教師をしていた。この時に、「人間とは、人生とは、なんぞや」という子供とは思えない質問をぶつけていて、平島氏も答えられず窮していたそうだ。そんなお二方の再会に偶然立ち会えたのは、幸運と言える。
文章と映像で個展の様子をお伝えしたが、この記事を見ていただいた方には是非とも、椿近代画廊の坂田甚内「私の中のビックバン―出会いの妙・縄文の記憶」展Vol.2に足を運んでほしい。坂田氏が作品の解説や思いを存分に語ってくれる。個展は9月21日までの開催。 一見の価値はあるので、是非ご高覧ください。 (坂田甚内氏の個展は終了しております。)
記事:永野浩史
坂田甚内氏のホームページ
展覧会の詳細は、椿近代画廊のホームページへ (個展は終了)
坂田甚内さんの寄稿文はADC文化通信をご覧ください